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アラフィフ編集者、瀬戸内の名山に登る。 ~岡山県「後山」~

フィジカルにアタックしても、メンタルにアタックしても、山は人間を大いに内省的にしてくれる。そして、秀麗な姿で堂々とそびえる山々を前にして痛感するのだ。山がわれわれにとって生活の一部であり、われわれの肉体と精神が山に育てられてきたということを。登るもよし。歩くもよし。見るもよし。思うもよし。そこに山が、あるゆえに―。アラフィフ編集者が瀬戸内各県の最高峰に単独アタックし、身近すぎて見過ごしがちなふるさとの山の魅力を全身全霊で体感するこの企画。3rd アタックは、岡山県最高峰の「後山」。古より文化や伝承が息づく後山は岡山と兵庫の両県にまたがり、中国・関西の両百名山にも選ばれた秀峰だ。山頂へと続く大パノラマの縦走路は、思い出の歌を口ずさみながら何千マイルも歩いていけそうな気分になる。

<取材・写真・文/鎌田 剛史>

のびやかに横たわる広大な稜線歩きを独り占め。

【後山 DATA】標高:1,344m 所在地 :岡山県美作市/兵庫県宍粟市 山系:中国山地 名山選定:近畿百名山/中国百名山 公園指定:氷ノ山後山那岐山国定公園

岡山県最高峰を静かな縦走で味わう、春のお気楽登山。

山登りはとことん楽しい方がいいに決まっている。岡山県最高峰・後山へのアタックは、標高900mにある西粟倉村の駒の尾登山口を出発し、なだらかな山道を尾根伝いに歩き、いつのまにか山頂に到着しているという登山初心者でも安心して登れるルートを選択。登山口から山頂までの標高差は約450mなので手軽な山歩きを満喫できるだろう。春の澄み切った青空の下、ルンルン気分で出発した。登山口の石標を通り抜ける際、看板の「熊出没注意」の文字が目に入る。肩を揺らし、リュックサックに取り付けた鈴の音を今一度確かめてみた。

整備された登山道は傾斜もきつくなく歩きやすい。約1時間で稜線に出ると、中国山地の山々が眼下に広がる。ほどなくして最初のポイントである駒の尾山山頂へ。山頂標識の周りを、ベンチ代わりの石がストーンサークルのように囲んでいた。

登山口に「熊出没注意」の看板が。事前に100円ショップで購入した鈴をバッグに装着。どうか「森の熊さん」に出会いませんように。

駒の尾山の登山道は整備が行き届いていて歩きやく、周りにはブナの原生林が広がっている。スタートからしばらくは階段上りが続く。

登り続けるとやがて稜線に出る。里山の景色がはるか下に見えて気分は爽快。麓から吹き上がってくる風が春の風情を伝えてくれる。

駒の尾山の頂上付近から南方面を見た景色。はるか遠くまで連なる中国山地の山々が美しい。

約70分で駒の尾山ピークに到着。平日ということもあり登山客はひとりもいない。しばらく頂上からの絶景を堪能し、ふたたび出発。

眺めてよし、歩いてもよし。中国山地の大展望とチシマザサの美しい回廊を行く。

駒の尾山から後山を目指すルートのハイライトとなるのが、鍋ヶ谷山、船木山を経由する爽快なトラバースだ。駒の尾山を発ってすぐ、雄大な中国山地を借景に東へと延びる3座の山稜を一望できる。風を受けて両脇のチシマザサが揺れる縦走路がくねくねと蛇行しながら、はるか向こうまで続く光景は美しい。つい時間を忘れ、壮観な景色を何枚も写真に収めた。この日は晴天。しかも登山客は自分以外に誰もおらず、まさに独り占め状態だ。春のポカポカ陽気を浴び、絶景ロケーションを眺めながらの稜線歩きは、やはり最高に気持ちいい。

駒の尾山山頂を過ぎたあたりから船木山、後山方面を望む。中国山地の山々を借景に美しい稜線が続いている。ここからは岡山・兵庫両県境沿いに延びる縦走路を進むことになる。ゆるやかなアップダウンの道なので、ハイキング気分で軽快に歩ける。

ひとりぼっちの稜線歩きは、底抜けに自由で、楽しい。

岡山県と兵庫県の県境沿いを走る縦走路は、中国自然歩道として整備されている。道幅が広く、遊歩道のように歩きやすい。道中には避難小屋もあった。悪天候に見舞われたり、クマに遭遇した時などに利用するのだろう。そういえば、この周辺ではクマが出没するかもしれないということを、爽快な山歩きを楽しむあまりすっかり忘れていた。大した効果はないだろうが、少し足に弾みをつけて鈴の音が響くように意識して歩いてみる。ゆるく下りては登り返すを繰り返しながら、後山方面へ着々と距離を詰めていった。

そのまま気付かずに通過してしまうほど地味な鍋ヶ谷山の山頂で一息入れる。空を見上げると雲が優雅に流れている。周囲に高い樹木はなく、山の上というよりは高原にいるような感じがする。静寂に包まれた豊かな自然の中でたったひとり、ストレスフルな日常もすっかり忘れて悦に入る。

縦走路沿いに建っている避難小屋の内部。休憩や不測の事態が発生した時など誰でも利用できるよう開放されている。中には板敷きの間と暖炉があった。扉は頑丈な鋼鉄製で、これならクマが襲来してきても大丈夫だろう。

駒の尾山から船木山への中間地点である鍋ヶ谷山の山頂は、小さな標識がぽつんと建てられているだけ。道の途中に突然現れるので、うっかり見過ごしてしまいそう。

尾根道の北側は兵庫県。雄大な中国山地の山並みが続いている。

ひときわ存在感を放っていたのが兵庫県最高峰の氷ノ山。山頂部には残雪が見られた。

鍋ヶ谷山から約1時間で船木山の山頂に着いた。岡山・兵庫両県がそれぞれ立てた山頂標識以外にはこれといって何もない。南側の展望が開けており、美しい山並みや麓の集落などがきれいに見渡せる。正面に見える後山山頂もずいぶんと近くなった。チシマザサ越しに展望を楽しみながら歩を進める。樹齢を重ねたブナに囲まれた道を過ぎ、最後の坂道を登りきると、後山山頂に到着した。

雄大な景色と自然を楽しみながら尾根伝いに歩いていると、いつのまにか船木山山頂に到着。駒の尾山からは約60分。後山山頂まではもう少しだ。

山頂に到着。360度の見事な大展望に、再訪を誓う。

後山の山頂は意外とこぢんまりしていた。三等三角点の標石のほか、船木山と同様に岡山・兵庫の両県が立てた山名標識があった。登り坂からも見えていたブルーシートには小さなほこらが包まれていた。おそらく冬の厳しい風雪から守るために、地元の人たちが手厚く包んだのだろう。

存在感のある風格と秀麗な山容を誇る後山は、はるか昔より修験の山としても知られ、南側の行者谷から道仙寺奥の院への道だけは、現在でも女人禁制のままだという。だが、決して人を簡単に寄せ付けない厳しい山ではないと感じた。駒の尾山からこの山頂までに至る稜線歩きは、どの季節に訪れても美しく心地良いだろうし、四季ごとの多彩な表情を見せながら、登山客を優しく迎えてくれるに違いない。

岡山県美作市と兵庫県宍粟市にまたがる後山の山頂。写真右方が兵庫県側、左方が岡山県側だ。青いビニールシートが掛けられているのは祭神のほこら。兵庫側で呼ばれる山名の「板場見山」と刻まれた標識もあった。

兵庫県側を見下ろした景色も見晴らしがよく素晴らしい。ちなみに岡山県では最高峰の後山も、兵庫県では氷ノ山、三室山に続いて3番目の高さの山となる。

左の角が欠けていた三等三角点の標石。岡山県が立てた山名標識には標高1,344mとあるが、兵庫県の標識には1,345mと書いてあった。ちなみに国土地理院のホームページに記載されている後山の標高は1,344mである。

岡山県は全国有数の国産木材の生産量を誇り、美作市や西粟倉村をはじめとする県北部の山々には広大なスギやヒノキ、マツの植林地が広がっている。県や地元自治体では県産木材を使った「地産地消の家づくり」の普及促進に力を入れており、国産材を使った住まいの魅力をアピールしている。

絶景をおかずに昼食を腹に収めた後、来た道をピストンで引き返す。駒の尾山に向かって眺める稜線も素晴らしい。鍋ヶ谷山山頂を過ぎた辺りから空が厚い雲に覆われ始め閉口する。周囲が暗くなるにつれ、”アイツ”の姿が脳裏に浮かび、心細さがだんだんと増していく。鈴の音がひときわ響くよう着地する足に少し力を込めながら、速足で帰路を急いだ。

昼食には美作市のローカルパン。中村屋のハイソフトクリームを食す。その素朴な味わいも、絶景を眺めながら口に運べば美味さがさらに倍増。

後山登頂の足あと。

登頂日:2021/4/8 登山ルート:駒の尾山登山口(西粟倉村側)→駒の尾山山頂→鍋ヶ谷山山頂→船木山山頂→後山山頂 往復 活動時間:約6時間10分(休憩など含む)

8:45 START →

①駒の尾山登山口を出発

9:15 →

木製階段をひたすら登る

9:23 →

②約30分で展望台に到着

9:45 →

登るにつれ景色が変わっていく

9:58 →

稜線に出ると足取りも軽快に

10:04 →

③駒の尾山山頂(標高1,280m)

10:19 →

④避難小屋

10:26 →

両側に笹が茂る尾根道を進む

10:44 →

⑤鍋ヶ谷山山頂(標高1,253m)

11:27 →

⑥船木山山頂(標高1,334m)

11:34 →

後山まであと少し

12:10 →

山頂まで最後のひと踏ん張り

12:25 →

⑦後山山頂に到着

12:56 →

下山開始

13:39 →

来た道をひたすら帰る

14:02 →

④避難小屋まで戻ってきた

14:23 →

駒の尾山の階段を下る

14:51 GOAL

①駒の尾山登山口に到着

岡山県北東部の美作市と、兵庫県宍粟市との境にそびえる後山。古より修験道の霊場として栄えた山で、標高1,000m付近に建てられている奥ノ院行者堂本堂への山道は現在も女人禁制。今回歩いたのは、岡山県西粟倉村のダルガ峰林道の途中にある登山口から、駒の尾山、鍋ヶ谷山、船木山を経て後山に至る後山連山縦走コース。全体的に登山道がしっかりと整備されており、初心者でも安心して登れるのでおすすめだ。ほかにも岡山県のダルガ峰から登る道など、両県の麓から頂上を目指すさまざまなルートがある。

<1st アタック> 香川県最高峰「竜王山」への登頂リポートはこちら

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<2nd アタック> 山口県最高峰「寂地山」への登頂リポートはこちら

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<4th アタック> 広島県最高峰「恐羅漢山」への登頂リポートはこちら

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<5th アタック> 兵庫県最高峰「氷ノ山」への登頂リポートはこちら

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<ファイナル・アタック> 西日本最高峰・愛媛県「石鎚山」にある飛瀑「御来光の滝」への登頂リポートはこちら

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この記事を書いたのは…
瀬戸内民家シリーズの雑誌表紙

瀬戸内海沿岸の岡山・広島・山口・香川・愛媛・兵庫各県で家づくりを手掛ける腕利き工務店の情報に加え、瀬戸内の自然や気候風土、歴史、文化といった、瀬戸内で暮らす魅力を発信しています。さらに詳しく>

アラフィフ編集者が瀬戸内各県の最高峰6座へ、ロックンロールの名曲の調べとともにアタックした記事「Rock n’ roll 瀬戸内の名山」はぜひ本誌でじっくりと。

瀬戸内の名山へ挑む模様の動画を「SETOUCHI MINKA」のInstagramで発信中!

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