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“いとをかし” 畳の世界 ①畳の歴史

日本の建築に欠かせない構成要素の一つに挙げられる畳。湿度の高い日本の気候に適し、食卓や座敷、寝室といったように部屋をさまざまな用途で使用することを可能にした、日本が誇る優れた建築部材だ。靴を脱ぎ、床に座るという外国とは異なる日本の生活スタイルの源として、畳こそが日本の住宅の特質を象徴するものといえるのではないだろうか。日本人の暮らしに根付き、いつも身近にある畳に、あらためて目を向けてみよう。

<取材・文/鎌田 剛史>

平安時代の貴族の住宅が寝殿造。部屋の床は全て板敷きであり、必要な所に畳やむしろを敷いていた。当時の宮廷生活の様子を描いた絵巻物でも所々に鮮やかな縁のある畳が見られる。身分の高い者が座るらしき高さのある畳もあり、それはまるで現代の住まいでも見られる小上がりの畳スペースのようだ。(松岡映丘画『みぐしあげ』 / 1926年/兵庫県立近代美術館『没後40年記念 松岡映丘展 1978年』 より)

畳の語源は「たたむ」「折り返して重ねる」。

普段の生活において特に意識せずとも身近に存在し、日本の住まいを象徴する構成要素の一つでもある畳は、国内で最も普及している伝統的な住宅部材だ。畳の起源は古代にまでさかのぼり、「古事記」や「万葉集」にも記述されているように、畳は、はるか昔から現代まで脈々と受け継がれてきた日本独自の文化である。畳の語源は動詞の「たたむ」が名詞化したもので、当初はむしろやござ、こもなどの敷物全般を指していたとされ、それらは使用しない時には折り畳んで部屋の隅に置いていたことから、「折り返して重ねる」という意味も含まれているという。

畳が現在の形状に近いものになったのは中世に入ってからで、畳自体の厚さが増し、部屋に据え置いて使われ始めた。平安時代の貴族の住宅である寝殿造の床は板敷きで、畳は主に高貴な人物の座具・寝具として、いわば座布団やクッションのような感覚で使われ、床の必要な部分にのみ数枚の畳が敷かれていた。貴族社会において畳は権力の象徴でもあり、身分が高い人が座る畳は広く厚みのあるものが用いられたほか、畳の上にさらに別の畳を重ねたり、身分や職位によって畳縁の色・模様を変えるなど、厳密な規則も定められていた。

書院造の確立とともに変化した形状と敷き方。

鎌倉時代から室町時代にかけて書院造が確立すると、部屋に畳を敷く面積が増え、やがて部屋全体に畳が敷き詰められるようになっていった。また、最初は板敷きの床の上に畳を置いていたものが、時代とともに敷居の内側に畳を収め、敷居と畳の表面の高さをそろえる建て方へと変化し、畳が床の仕上げ材として普及していった。桃山時代から茶道が発達したのに伴い、茶室の意匠や手法を取り入れた数寄屋風書院造が登場。四畳半など炉の位置によって畳の敷き方を変える手法も広まっていった。

江戸時代に入ると、畳そのものが重要な建築物の要素として一般化し、城や屋敷の新築・改修工事を司る役職の「御畳奉行」が設けられるなど、畳は大名や武家にとって重要なものとなった。庶民に畳が普及していったのは江戸時代中期ごろからと考えられ、地方の農村や漁村の民家にまで畳が普及し、日常的に使われるようになったのはそれからさらに時を下った明治から昭和時代にかけてであり、日本の一般的な民家における畳の歴史は意外に短い。

生活様式の洋風化に伴い、畳の需要が減少。

第二次世界大戦後、高度経済成長とともに日本の生活様式が洋風化し、床材には畳の代わりにフローリングが多く用いられるようになっていった。建物構造や消費者意識の変化などによって和室が減り、畳の需要も減少の一途をたどりながら現在に至っている。

畳を取り巻く環境は年々厳しくなる一方だが、現在畳に携わる人たちは、日本が誇る伝統文化である畳を守りつつ、時代に合ったマテリアルとして復活させるべく、さまざまなアイデアと工夫を重ねている。機能性や耐久性に優れた化学素材を用いた畳をはじめ、洗える畳やカラー畳、防水畳、車椅子に対応した畳など、現代の日本の暮らし方に寄り添い、多様化した消費者ニーズに対応できる製品を開発。中でも「置き畳」は、平安時代のように薄い畳をクッションとして1枚から数枚程度フローリングに置く製品で人気を集めている。

現代の住宅では高気密・高断熱などの住宅性能を重視されており、一年中快適に暮らせる住まいがスタンダードになってきており、畳自体に断熱などの性能効果は問われなくなった反面、心身のリラックスや癒やしといった畳のある空間の必要性が見直され始めている。日本人として、畳のある暮らしの素晴らしさについて、あらためて認識する時期を迎えているといえるだろう。

【参考文献】
『和室学 世界で日本にしかない空間』 松村 秀一・服部 岑生 編/ 平凡社/ 2020 年、『 絵で見てわかる 伝統建築の図鑑』斉藤 武行 著/ 秀和システム/ 2019 年、『畳のはなし 物語ものの建築史』佐藤 理 著/ 鹿島出版会/1985 年、『いぐさ(畳表)をめぐる事情』 農林水産省 資料/ 2022 年6 月

この記事を書いたのは…
瀬戸内民家シリーズの雑誌表紙

瀬戸内海沿岸の岡山・広島・山口・香川・愛媛・兵庫各県で家づくりを手掛ける腕利き工務店の情報に加え、瀬戸内の自然や気候風土、歴史、文化といった、瀬戸内で暮らす魅力を発信しています。さらに詳しく>

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