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SETOUCHI MINKA featuring HIRAYA SETOUCHI MINKA featuring HIRAYA

日本の古民家、太平洋を渡る。

香川県丸亀市からアメリカ合衆国・カリフォルニア州へ、築約200年の古民家が移築された。この壮大なプロジェクトの全貌と、実現に至るまでの経緯を紹介する。

解体作業が行われる築約200年の「横井邸」。所有者である横井昭さんが、アメリカの「ハンティントン財団庭園」の理事と知り合ったことから、移築再生の構想が始まった。

偶然の出会いから始まった移築プロジェクト。

香川県に現存していた築約200年(改築前からさかのぼると築約320年)の古民家が、アメリカ合衆国・カリフォルニア州の郊外にある「ハンティントン財団庭園」に移築され、2023年3月ごろに公開されることになった。この古民家「横井邸」は、現在の高松市香南町にあった「横井城」から丸亀市今津町に移り住み、庄屋となった横井家が建てた木造平屋建てで、延床面積は約220㎡。邸内から豊臣秀吉の太閤検地に関する古文書が見つかるなど、由緒ある庄屋の邸宅だ。柱、梁、障子、ふすま、瓦屋根といった日本建築ならではの構成部材も当時のまま残り、長い間手を加えられず現在まで保存されてきた。
「横井邸」の所有者である19代目当主・横井昭さんは現在ロサンゼルスに在住。この家には中学卒業まで暮らしたそうだが、祖母が亡くなった約30年前から空き家になっており、横井さんが年に数回帰国し、手入れのために訪れていたという。移築先となった「ハンティントン財団庭園」は、アメリカの実業家によって約100年前に設立された財団が運営する庭園。広大な敷地内には美術館や図書館をはじめ、太鼓橋や茶室のある日本庭園などが整備され、2015年には高松市の「栗林公園」と姉妹庭園提携を結んでいる。2016年、瀬戸内地域に関心を寄せていた財団関係者と横井さんが偶然知り合ったことがきっかけとなり、日本の伝統的な古民家をアメリカに移築するという壮大なプロジェクトが本格的に立ち上がった。

香川県丸亀市に現存していた「横井邸」。横井家はこの地域の庄屋を務めていた。同家に残る記録によると、この木造平屋の邸宅は8代目当主によって建てられたものだという。
「横井邸」の内部。柱や梁、建具などには上質な木材が使われている。長く空き家状態だったが、現当主の横井さんが手入れしていたこともあり、保存状態は良好だった。

古民家の部材を全て解体。地元高校生も参加し伝統建築への知識を深める。

古民家再生に力を入れ、横井邸の管理を請け負っていた丸亀市の「山倉建設」にも移築の話が持ち掛けられ、会長の山倉康平さんは参加を快諾。建物の解体と復元工事を担当することになった。「ふるさとを子どもたちに残したい」と考える山倉さんは、坂出市と多度津町の高校に、日本建築の素晴らしさに触れてもらう機会を生徒たちに提供したいと、移築作業への見学参加を提案。この話に関心を寄せた両校の生徒たちは、実際の解体作業を間近に見学したり、解体から出た端材でオブジェを製作し発表会を開催するなど、古民家の構造や使用されている木材などへの知識を深めた。参加した高校生の中には、「将来大工や左官になりたい」という生徒もいたそうだ。
解体工事は2019年に着手し、一旦全ての部材を愛媛県松山市へ移送。現地で再び組み上げるための確認作業を入念に行った上で、古材の一つ一つに職人が手刻みで細かな調整を施した。コロナ渦により一旦中断を余儀なくされたものの、2020年3月には船でカリフォルニアへの輸送が完了した。

クレーンを使って巨大な梁を慎重に取り外す。全ての木材を慎重に解体・分解した後、再び組み立てられるようにラベル付けを行った。
解体した部材は全て愛媛県松山市の工場に運び修復。傷みやゆがみなどで再利用できないものは、精巧なレプリカを製作して代用。
地元の高校生もプロジェクトに参加。「横井邸」の解体で出た廃材を加工して照明のオブジェを製作するなど、伝統建築や国産木材の素晴らしさを知る機会となった。

次々と立ちはだかる異国間の課題をクリアし、ようやく完成にこぎ着ける。

山倉さんは「ハンティントン財団庭園」での復元工事を担う腕利き職人を国内から招集。声をかけた職人たちは当初渡米に難色を示したものの、粘り強い説得で賛同を得ることができ、2021年3月に現地工事がスタートした。
日本から派遣された職人と現地のサポーターが協力し、運び込まれた部材を丁寧に組み上げていった。歴史的な神社仏閣の修復と同様に、長い歳月を積み重ねてきた古材の趣や味わいを失わないよう、作業は慎重に進められた。約9ヵ月をかけて工事は完了。往時の佇まいを忠実に再現した「横井邸」がアメリカの地で見事に蘇った。
「ここに至るまでの道のりは、決して平坦ではありませんでした」と、山倉さんは感慨深そうに振り返る。「日本の古民家が海を越えることは簡単ではありませんでした。古い木造家屋ゆえに、長期間風雨にさらされて起こる腐敗や、シロアリによる損傷がひどい場合は、移築ができないかもしれませんでしたし、海外への移築を行うには関係する自治体や日本政府の承認が必要で、非常に手が掛かりましたね」。
また、解体した家をカリフォルニア州で再び建築する際にも、アメリカの建築基準で建て替えができるかが分からず、さらには、日本瓦はアメリカだと不燃材料にならないためにあらためて許可を取る必要があったりと、まさに手探りの状態で、困難の連続だったという。「ハンティントン財団」と共に、これらの課題をクリアするには、約2年の調査と交渉の時間を要したそうだ。

日本から輸送された古材がズラリと並ぶ。「横井邸」の復元作業を手掛けたのは、日本から派遣されたベテランの大工たち。
「ハンティントン財団庭園」での復元工事の様子。事前に倉庫で仮組みを行った後、実際の組み立てを開始。昔ながらの工法で当時の姿を再現するのはもちろん、現代の安全基準もクリアするように建築。伝統の技に現代技術の粋を融合した。
屋根瓦の葺き替え作業。カリフォルニアの陽光を受け、日本瓦ならではのいぶしの輝きが際立つ。
高度な技を持つ日本の熟練職人たちが集結。各部材に微調整を施しながら丁寧に組み立てていく。
(日本で現存していた姿で再建築できるよう、渡米前に作成された図面を基に作業が進む。室内の間取りや意匠もそのままに復元された。
工期終盤には日本から左官職人も合流。土壁や土間を塗り上げた。

日本建築の伝統技術で現代に蘇った「横井邸」を異文化交流の架け橋に。

山倉さんは「いくつもの難題を乗り越えたからこそ、実現の喜びもひとしお」だと笑顔を見せる。「今回のプロジェクトは奇跡的な縁がつながって果たせたものと実感しています。スギやヒノキなどの日本の国産材を使った家は世代を超えて長持ちし、しかも時を経るごとに輝きを増していきます。世界中からこの庭園に訪れる皆さんに、私たちが手掛けた『横井邸』に実際に触れてもらい、日本人が長年にわたって育んできた独自の生活文化や、日本建築の技術の高さを多くの人たちに知ってもらいたいです。そこから実際に日本を訪れる人が増え、異文化交流ももっと活発になればいいですね。『横井邸』がその架け橋となれば、これ以上うれしいことはないですよ」と、公開後の展開に大きな期待を寄せている。

横井邸差し替え完成写真
「ハンティントン財団庭園」には世界各国の民家が集められており、その一角を占める日本庭園は100年以上の歴史を誇る。長き歴史と栄誉あるこの地に、堂々とした佇まいを見せる「横井邸」が新たに加わった。
「山倉建設」会長の山倉康平さん。「(一社)古民家再生協会香川」の代表理事も務めている。

【取材協力】株式会社 山倉建設
多度津事務所:香川県仲多度郡多度津町南鴨4-3
高松事務所:香川県高松市林町6-35 
☎0120-326-294 https://www.arigato-yamakura.com

この記事を書いたのは…
瀬戸内民家、平屋の雑誌表紙

瀬戸内海沿岸の岡山・広島・山口・香川・愛媛・兵庫各県で平屋の家づくりを手掛ける腕利き工務店の情報や、豊富な施工実例など、平屋を建てるのに役立つ情報を発信しています。

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