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“いとをかし” 畳の世界 ⑥百花繚乱の彩り「畳縁」に目を向ける。

畳の摩耗を防ぐため、縁に施された布「畳縁」。岡山県倉敷市にある「髙田織物」は、長年にわたり製造してきた老舗企業だ。従来の概念を覆す斬新なアイデアとアクションで、畳縁の新しいカタチを追求している同社社長・髙田尚志さんに話を聞いた。

<取材・文/鎌田 剛史 写真/鈴木 トヲル>

畳の構成部材では地味な役回りの畳縁。

質問。「畳縁とは何か?」。それが何だか分からないと答えたあなたも、「畳の長辺にあつらえた、畳を縁取る布のこと」と説明すればイメージできるのではないだろうか。畳縁は、畳表の磨耗を防ぐとともに、畳を敷き合わせる際にできやすい隙間を締める役割を持つ。そのルーツは畳とほぼ同じく、はるか昔の奈良時代までさかのぼるといわれている。かつて畳は権力の象徴であり、畳縁の模様や色によって身分をあらわしていた時代もあったそうだ。

時代は流れ、近代になって畳が一般家庭の住まいにも普及して以来、畳縁はいつしか黒か茶色の無地が定番となり、現在でも多く使われている。例えば、日本家屋に設えた和室の美しさを彩る要素の一つとして、イグサが薫る青々とした畳表の美しさが称えられることはあっても、畳縁の柄にまで目を向けられることは少ない。畳縁は誰もが見慣れたものだとはいえ、そこまで関心を集めない、いわば地味な役回りの存在だといえる。

岡山が誇る畳縁のトップメーカー「髙田織物」。

同社6代目社長の髙田尚志さん。「好みの色や柄の製品を選ぶのが一般的なカーテンや壁紙と同様に、畳縁も好きなものを選ぶという認識をスタンダードにしたいんです」と思いをはせる。

今、畳縁が自分の好みで自由に選べるということを、一体どれだけの人が知っているだろう。さらに、現代センスが織り込まれたカラフルでポップな柄の製品が豊富にラインアップされ、畳縁の柄や色次第で、より個性的な空間を生み出せるということも。

「人生の中で畳縁のことについて考える機会なんてそうそうありません。家を建てる時か、リフォームで畳の入れ替えをする時ぐらい。それに、ほとんどの方は畳縁を自由に選べることなんて知りませんからね。だから、そんな畳縁のイメージを私たちが変えていかなければと思っています」と熱っぽく話すのは、岡山県倉敷市にある畳縁メーカー「髙田織物」の髙田尚志さんだ。2020年に同社代表取締役に就任した若きリーダーである。

ジーンズや学生服など、繊維業の盛んな街として知られる岡山県倉敷市児島で、織物の製造メーカーとして歴史を積み重ねてきた「髙田織物」。創業当初は備前焼の木箱に用いる真田紐や、小倉帯などを製造していたが、大正中期には余った糸を有効に利用できるとして畳縁に着目。当時先進地だった福井県で製造技術を習得し、自社生産をスタートした。

昭和時代には、戦後の復興や高度経済成長による住宅ブームなどにより、畳縁の需要が拡大。同社もその波に乗り畳縁製造で躍進した。以後、それまで畳縁の素材だった綿の代わりに鮮やかな発色の合成繊維を用いた柄物の畳縁の開発など、時代に先駆けた新しい試みを次々と展開し、業界のパイオニアとして一目置かれる存在に。押しも押されぬトップメーカーへと成長を遂げた。今やそのシェアは全国で約40%を誇っている。

創業から120年を超える畳縁の老舗メーカー「髙田織物」。これまで工場見学の受け入れや、畳縁を直接購入できるショップ開設など、常にオープンな会社であることを心掛けてきた。
昔の畳縁は、蝋を引きブラシで磨き上げた黒や茶の綿糸・麻糸が使われていたが、 現在は主に化学繊維で織られたものを使用。ペットボトルを再利用して作られた糸なども用いられ、カラーバリエーションも豊富に。

畳縁そのものの価値を向上させた業界のパイオニア。

「髙田織物」の全社員31人中26人が女性。仕事が繊細で丁寧なことはもちろん、女性ならではの感性や発想が新たな商品やサービスの創造につながることも多いという。

日本の住まいに欠かせないものとして昔から使われてきた畳だが、現代ではフローリングの床が主流になり、和室を設けない家も見られるようになっている。需要の落ち込みにより畳店は減少、職人の高齢化や後継者不在の問題も追い打ちとなり、畳産業は衰退の一途をたどっている。「畳は毎日の暮らしに癒やしや安らぎを与えるだけでなく、日本人の礼儀やしきたりを足下から支える大切な文化。畳に携わるメーカーとして、千年以上も変わらず脈々と受け継がれてきた畳を絶やしてはいけないという責任感もあります」と髙田さんは襟を正す。

「髙田織物」ではこうした現状を見据え、先代の父・幸雄さんより畳関連商品全体の高付加価値化に取り組んできた。「従来から畳縁は畳の付属品という認識で、畳縁そのものの価値を問われるようなことはなかったんです。そこで当社では、畳縁が一体いくらするものなのかを知らない人たちのために、手芸などで使えるハンドメイド用の畳縁の小売販売を始めました。畳縁そのものに世間からの相場が付けば、畳屋さんは畳縁代を上乗せして販売しやすくなります。畳店がきちんと利益を得られる仕組みをつくれば、当社の製品をもっとたくさん使ってもらえますし、ひいては業界全体の活性化にもつながると考えたんです」。

同社は畳需要の拡大を図る一つの策として、畳縁を卸す畳店をはじめ、住宅会社や設計事務所に対し、エンドユーザーが畳縁を多彩な商品の中から自由に選べるようにする提案を持ち掛けた。当初は昔気質な畳職人から「畳縁の種類が増えると取り寄せる手間やコストがかかって儲からない」などと反発も多かった。しかし、同社の選べる畳縁がエンドユーザーから評価を集め始めると、畳店からは「相場も付いてきているから代金もいただきやすい」と、同社の畳縁を積極的に使ってくれるようになったという。畳店の一存で決められていた畳縁を、住宅会社やエンドユーザーが選ぶという新しい概念を生み出すことに成功した。

伝統的な柄はもちろん、花柄や動物柄、ポップな模様など、約1,000種類にも及ぶバリエーション豊かな畳縁を製造。
現在は約100台の織機で1日に約2万5,000畳分の畳縁を生産。16時までのオーダーは即日納品のスピード体制を確立。10畳分からの小ロットにも受注生産で対応している。

日本人の暮らしを足下で支える畳を守り、次世代へつなぐために貢献したい。

本社敷地の一角にある畳縁の直販店「フラット」。壁一面を埋め尽くす色とりどりの畳縁ロールが圧巻。

髙田さんは高校時代に畳文化の研究に取り組み、大学時代は人が住まう環境についてあらゆる視点から学んだといい、その知識と経験は今にも生かされているそうだ。「畳は高温多湿な日本の気候に合った吸湿性と放湿性に優れ、心身ともにリラックスさせる効果があります。それに表替えなど手直しすれば何十年も使える耐久性を持ち、サスティナブル社会が提唱される現代にふさわしいプロダクトだといえるでしょう。畳縁も自分の好みや部屋の用途に合わせて選べば、畳のある生活がもっと華やかになります。その魅力を一人でも多くの方に知ってほしいですね」と白い歯をこぼす。

同社を取り巻く環境は決して良好とはいえないが、「こんな時代だからこそ畳縁が秘めた可能性を引き出す絶好のチャンス」と髙田さんは前を向く。同社では、鮮やかな柄・色のバッグや小物など多彩なグッズを次々と開発。若い女性にも「カワイイ」「映える」と好評で、東京・新橋にある岡山県産品のアンテナショップでは、全商品の中で畳縁が今や売上トップを誇るほどに。また、軽くて丈夫であることや、家庭用ミシンでも縫えるといった特徴から、ハンドメイドに最適な素材として手芸ファンからの支持も増えている。さらに、全国で店舗を展開する有名セレクトショップをはじめ、ヨーロッパを代表するメゾンブランドのアイテムにも畳縁が採用されるなど、国内外のファッション業界でも注目を集める存在になっている。

髙田さんは畳縁そのものが主役となる新しい活用方法を次々と生み出し、進化させ続けている。その手ごたえも感じているといい、「ゆっくりとではありますが、畳縁の知名度は広がりを見せています。これからもトライ・アンド・エラーを繰り返しながら、さまざまな分野にチャレンジしていきたい」と目を輝かせていた。

畳縁を直接見て触れることができるギャラリーのほか、畳縁を用いた多彩なアイテムなどを販売。随時開催している手作り教室・ワークショップも好評だ。
トートバッグや名刺入れなど、現代の生活シーンにもオシャレになじむカラフルで愛らしい畳縁アイテム。どれも細部まで創意工夫にあふれている。ECサイトでのオンライン販売も行っており、売上は順調に伸びているそう。

髙田 尚志

慶応義塾大学で建築分野について学んだ後、2004年に家業である「髙田織物」に入社。先代社長の父・幸雄さんとともに、畳縁の認知促進を目指し、多方面にわたる事業展開に尽力。2020年に代表取締役に就任。畳縁のさらなる普及拡大に情熱を注ぐ。

髙田織物 株式会社

【フラット 児島本店】
岡山県倉敷市児島唐琴2-2-53(本社敷地内) 10:00~15:00
日曜・祝日、土曜日不定休 ☎086-477-6777
【フラット 倉敷美観地区店】
岡山県倉敷市中央1-4-16(日本郷土玩具館内) 10:00~17:00
年末年始休 ☎086-435-0014

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この記事を書いたのは…
瀬戸内民家シリーズの雑誌表紙

瀬戸内海沿岸の岡山・広島・山口・香川・愛媛・兵庫各県で家づくりを手掛ける腕利き工務店の情報に加え、瀬戸内の自然や気候風土、歴史、文化といった、瀬戸内で暮らす魅力を発信しています。さらに詳しく>

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