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瀬戸内近郊の「文学の街」へ出かけよう!~兵庫県豊岡市「城崎温泉」~

簡単には旅に出られない昨今。例えば、自分の住む地域が舞台となった文学作品を読みながら、その場所の情景や雰囲気についてイメージを膨らませるとともに、いつかそこへ足を運ぶための予定を今のうちに立ててみるのはいかがだろう。そんな「文学の旅」を楽しめる瀬戸内各県のおすすめスポットをご紹介。当誌の誌面を華やかに彩る「せとみんガールズ」のメンバーが、文学の街として名高い兵庫県豊岡市の城崎温泉へ1day tripを敢行。『城の崎にて』などで知られる文豪・志賀直哉をはじめ、多くの文化人たちに愛された街を気ままに散策してきた。

<取材・文/鎌田 剛史 写真/鈴木 トヲル モデル/吉田 梨声>

志賀直哉をはじめ数多の文豪たちが訪れた湯治場。

約1,300年前に開湯したといわれる兵庫県豊岡市の「城崎温泉」は、平安時代から歌に詠まれるなど長き歴史を誇り、数多くの文人たちに愛された湯治場として知られている。中でも私小説の第一人者とされ、白樺派の中心的存在でもあった志賀直哉が、山手線の電車にはねられたケガの養生のためこの地に滞在し、その体験から小説『城の崎にて』を執筆した話は有名。志賀はその後も生涯のうち十数回にわたり城崎に足を運んだという。名だたる文人たちに愛された城崎温泉は、現在も昔の面影をそのまま残しながら、訪れる人たちを癒やし続けている。

志賀 直哉(1883~1971)

『城の崎にて・小僧の神様』

志賀 直哉 著 角川文庫/KADOKAWA

Spot 01 「北柳通り」

大谿(おおたに)川沿いに面し、城崎温泉街のメインストリートでもある「北柳通り」。柳並木が美しい通り沿いには、歴史ある老舗旅館や、古い木造建築を改装した飲食店、土産物屋などがずらりと軒を連ね、古き良き温泉街の風情が漂っている。夕刻を過ぎたころからは浴衣姿で歩く人たちの姿が多く見られ、カランコロンと下駄の音を響かせながら通りを散策するのも城崎の旅の醍醐味だ。

昔にタイムスリップした気分を味わえる「城崎温泉」の町並み。柳並木の通りに太鼓橋の架かる風景が、レトロな温泉街の雰囲気を醸し出している。2013年には旅⾏ガイド「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で⼆つ星を獲得するなど、海外からも大勢の観光客が訪れている。

Spot 02 「7つの外湯」

城崎温泉を訪れたなら「外湯巡り」は旅の楽しみとして外せない。外湯とは宿の外にある共同浴場のことで、「さとの湯」「地蔵湯」「柳湯」「一の湯」「御所の湯」「まんだら湯」「鴻の湯」の7つが点在。それぞれの外湯はすぐ近くにあるので、浴衣のままで歩いてはしごできる。7つの外湯は源泉が発見された時期や特色が異なり、城崎温泉発祥の湯といわれる「まんだら湯」や、歌舞伎座のような豪壮な建物の「一の湯」、恋愛成就の場として女性客に人気の「御所の湯」など、それぞれに違った魅力がある。外湯巡りを目的に日帰りで訪れる観光客も多い。

「北柳通り」と「湯の里通り」の境目付近にある「一の湯」。江戸時代中期に開湯した際の名は「新湯(あらゆ)」だったが、 江戸時代の名医・香川修徳が自著の中で「城崎新湯は天下一」と賞賛したことから「一の湯」に改名したという。

Spot 03 「温泉街散策」

「駅は玄関、道は廊下、宿は客室、土産屋は売店、外湯は大浴場」といったように、城崎温泉には「街全体が大きな温泉宿」の精神が根付いており、街は浴衣で散策する人でにぎわう。日本情緒あふれる通りを歩けば、地元の特産品を使った料理・スイーツを楽しめるオシャレなレストランやカフェのほか、土産物屋や遊技場など、あちらこちらに立ち寄りたくなるスポットがいっぱい。「北柳通り」や「湯の里通り」のメインストリートから細い路地に入り、ノスタルジックな風情の薫る「木屋町通り」などの裏通りを歩けば、文学的な旅愁にも誘われる。

「城崎ロープウェイ」入口の近くに湧く城崎温泉の源泉。

志賀直哉、島崎藤村、与謝野鉄幹・晶子など、城崎に所縁のある23人の文豪の文学碑が街の至る所に立てられている。

誰でも自由に俳句や和歌を投函できる「歌のポスト」も。

飲食店や民芸店などが入る商業施設「木屋町小路」。

飲食店や民芸店などが入る商業施設「木屋町小路」。

温泉街に5ヵ所ある足湯は無料で利用可能。

北柳通り沿いにある「BAG CAFE BAR CREEZAN 」で一休み。

鞄の製造が盛んな地元・豊岡市産の上質なバッグを販売するほか、2階のカフェでは柳並木の通りを見下ろしながら但馬牛100%のハンバーガーなどが味わえる。

Spot 04 「三木屋」

創業約300年を誇る老舗の日本旅館。志賀直哉が定宿とし、名作『城の崎にて』が生まれた旅館としても有名。作中のハチ、ネズミ、イモリの3つの生物の死と、九死に一生を得た自分の命を照らし合わせる描写は、志賀が「三木屋」での滞在中に目の当たりにした光景だという。この旅館には志賀をはじめとする白樺派のメンバーのほか、柳田國男、山下清、小磯良平など、数多くの文化人が訪れている。国の登録有形文化財に認定された1927年築の木造建築や、情緒あふれる約300坪の日本庭園には、時代や文化を超えた心地よい包容力と厳粛さが漂う。

志賀直哉が宿泊したという「26号室」。志賀はこの部屋の縁側から、庭を眺めては物思いにふけっていたとか。現在の「三木屋」の建物は1925年の北但大震災で崩壊した後、1927年に再建した3階建ての木造建築で、国の有形登録文化財。凛とした空気に満ちたモダンな空間が旅の疲れを癒やしてくれる。

部屋には志賀が「三木屋」の主人に宛てて書いた直筆の手紙や、彼の作品の初版本が並べられている。

志賀の肖像画も飾られていた。

「26号室」前の廊下には若き日の志賀の写真も。

「26号室」には現在も宿泊可能。

志賀が愛した日本庭園。彼も眺めたであろう美しい景色は当時のまま。

玄関ホールの奥にあるライブラリーラウンジ。

志賀のほか城崎温泉に滞在した作家の書籍を中心にラインアップされており、宿泊客は自由に閲覧できる。

歴史風情あふれる「三木屋」の外観。2013年には大規模な改修が施された。

三木屋

住所/兵庫県豊岡市城崎町湯島487 営業時間/8:00〜20:00 ☎0796-32-2031 https://kinosaki-mikiya.jp

Spot 05 「大師山」

城崎温泉街の南側に鎮座している標高231mの「大師山」。麓からはハイキングコースが整備されているほか、「城崎温泉ロープウェイ」で一気に登ることも可能。中間の温泉寺駅からは、約1,300年の歴史を持つ但馬地域最古の寺といわれる「温泉寺」へ参拝できる。山頂駅付近には展望台をはじめ、温泉寺の奥ノ院や大師堂があり、3枚の素焼きの陶器を投げて割ることで厄を落とすという「かわらけ投げ」も体験できる。絶景を楽しみながら自家焙煎のコーヒーやスイーツを味わえる「みはらしテラスカフェ」もゆったりと過ごせるスポットだ。

山頂には展望台があり、城崎温泉街や日本海を一望できる。その眺めは「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で1つ星を獲得したほどの絶景。

ロープウェイの山麓駅へと続く階段。周囲は静寂に包まれている。

麓から山頂までは「城崎温泉ロープウェイ」が運行。所要時間は片道約7分で、中間にある温泉寺駅でも下車でき(https://kinosaki-ropeway.jp)。

約1,300年の長き歴史を誇る「温泉寺」の境内には多宝塔や鐘楼もある。

Spot 06 「城崎文芸館」

温泉街の一角に佇む「城崎文芸館」には、城崎が登場する数多くの文学作品をはじめ、この地にゆかりのある文人たちに関する本や書簡などの貴重な資料を展示している。城崎温泉の歴史をたどるコーナーでは、入浴券の変遷や北但大震災からの復興など、さまざまな資料を通して現在までの歩みを分かりやすく紹介しており、城崎の歴史と文化についての知識を深めることもできる。また、城崎ゆかりの書き手にまつわる書籍やオリジナル商品を販売する「SHOP & SALON KINOBUN」も併設している。

「城崎文芸館」は1996年に開館。オープン20周年を迎えた2016年には、ブックディレクターの幅允孝氏などが携わり大幅にリニューアルされた。城崎と文学について楽しく学べる施設として人気を集めている。「城崎と本に関する現在進行形を知ってもらうこと」をテーマに、年に2回のペースで多彩な企画展も開催。

館内でひときわ目を引くのが巨大な本のオブジェがある空間。本の前に立つと文字が踊る幻想的なグラフィックスが映し出され、訪れた人を文学の世界へと誘う。

志賀直哉や島崎藤村をはじめ、城崎ゆかりの文人たちにまつわる書籍や直筆の手紙など、貴重な資料を常設展示。

「SHOP & SALON KINOBUNでは、地元旅館の関係者などでつくる城崎温泉旅館経営研究会が立ち上げた出版レーベル「本と温泉」のオリジナル書籍などを販売している。

城崎文芸館

住所/兵庫県豊岡市城崎町湯島357-1 営業時間/9:00〜17:00 料金/大人¥500、中高生¥300、小学生以下無料 定休日/水曜日、年末年始 ☎0796-32-2575 http://kinobun.jp


城崎温泉の魅力は「城崎温泉観光協会公式サイト」でチェック! https://kinosaki-spa.gr.jp

この記事を書いたのは…
瀬戸内民家シリーズの雑誌表紙

瀬戸内海沿岸の岡山・広島・山口・香川・愛媛・兵庫各県で家づくりを手掛ける腕利き工務店の情報に加え、瀬戸内の自然や気候風土、歴史、文化といった、瀬戸内で暮らす魅力を発信しています。さらに詳しく>

瀬戸内の文学にスポットを当てた読み応え十分の特集記事は本誌でぜひチェックを。

https://www.setouchiminka.jp/hiraya/book/hiraya.html/

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