SETOUCHI MINKA

自然素材の産地を訪ねて。【庵治石】

現代において、かつての日本で行われていたような自然素材を使った家づくりの素晴らしさが見直され、木・石・土などの自然素材を使った家の評価が高まってきている。地元の気候風土の中で育まれた“ふるさとの恵み”を生かした住まいは、
毎日の暮らしに癒しと潤いを与え、健康で快適なものにしてくれる。そして高い耐久性を誇り、いつまでも安全・安心に暮らすこともできる。

豊かな自然の恩恵を受けた天然素材を生かした製品づくりの盛んな街が、この瀬戸内地域に存在しているということを知らないという人は意外にも多い。そこには、古来より受け継がれてきた伝統の技と知恵を一途に守り、未来を見据えながら新しい価値を創造しようと、木・石・土に日々向き合い続ける人たちがいる。「国産木材」「石製品」「日本瓦」。日本でも有数の一大産地に恵まれた瀬戸内地域は、まさに地元の自然素材を使った家づくりに打ってつけの場所であるといえる。

この記事を書いたのは…
瀬戸内民家シリーズの雑誌表紙

瀬戸内海沿岸の岡山・広島・山口・香川・愛媛・兵庫各県で家づくりを手掛ける腕利き工務店の情報に加え、瀬戸内の自然や気候風土、歴史、文化といった、瀬戸内で暮らす魅力を発信しています。さらに詳しく>

美しい石、眠る半島。

香川県高松市

香川県高松市の東部に、瀬戸内海へひょっこり突き出した小さな半島がある。穏やかな海を借景に豊かな自然が広がる風光明媚な高松市庵治町・牟礼町一帯は、“花こう岩のダイヤモンド”とも称され、最高級石材として名を馳せる「庵治石」の産地。墓石や石灯籠を中心に石材産業の街として古より発展してきた庵治町を訪ね、“いいものをつくる”という信念で日々石と対峙し、作業に汗を流す職人たちの姿を追うとともに、庵治石の現状や今後の展望などについて話を伺った。

<取材・文/鎌田 剛史>

磨けば磨くほど美しく輝く、日本を代表する“石の街”。

 香川県高松市庵治町・牟礼町一帯は、花こう岩の日本3大産地の一つに数えられている。その歴史は古く、平安時代の文献にも採掘の記録が残されている。安土桃山時代の京都・石清水八幡宮再建や、江戸時代初期の高松城築城の際などにも庵治石が使われ、現在もそのまま残っている。

 庵治石を採掘する石切場は庵治・牟礼両町にまたがる五剣山にある。「丁場」と呼ばれており、「大丁場」「中丁場」「野山丁場」「庵治地区」の4カ所から指定業者によって掘り出されている。各社が作業を行う場所や採掘量は厳格に管理されており、香川県に認可された計画に基づいて採掘している。庵治石の安定した価格と供給量を保つためだ。それぞれの丁場では、長年の経験により培かわれた目を持つ職人たちが岩盤の層を見極めながら、重機や火薬を用いて石を取り出していく。

 庵治半島には多くの石材加工業者が存在している。墓石をはじめ、灯ろうや室内・玄関の石張り、仏像、各種施設や公園などのモニュメントなど、バラエティーに富んだ多彩な製品を生み出し、関西をはじめ日本全国へと出荷している。各社の敷地内には山から切り出された重厚な石の塊が山積みにされ、穏やかな表情で佇む巨大な石像なども多く置かれている。街を走る道路沿いや瀬戸内海を一望する公園などにはさまざまな形をした彫刻作品が鎮座し、「石の街」ならではの美しいアートな情景を織りなしている。

庵治石の価値を高め、守り続けるのは職人の技あってこそ。

  庵治石はさまざまな工程を経て製品化される。採掘された石を適した大きさに割り、ダイヤモンドの刃で切削。研磨盤を目の粗いものから細かいものへと替えながら丁寧に研磨した後、余分な箇所や手加工がしやすいように切り込む。そこから熟練した職人の手によって加工される。繊細な細工を施し、手作業で磨きムラがないように仕上げ、文字や絵柄などを彫り込んでいく。完成した製品は、入念な最終チェックを経て全国各地へと出荷される。こうした石工の技術は古くからこの地で連綿と受け継がれ、時代の変化に伴ってさらに進化し、磨きぬかれてきた。最高品質と一目置かれる庵治石の価値は、日々石と向き合い続ける職人たちの技とプライドに支えられている。

 墓石や仏像など日本の石材加工品の需要は近年減少しているとはいえ、庵治石のブランドは高品質・高級品としての確固たる地位を守り続けており、大幅な価格下落もないという。だからと言ってその地位に甘んじることなく、各社が切磋琢磨しながら技術向上と新製品開発のための研さんに励んでいる。年齢の若い職人もおり、後継者の育成にも余念がない。

今変わるべきコトと、いつまでも変わらないモノ。

 

 交通・運輸をはじめ、インターネットやSNSなどの発達による世界のグローバル化が進んだことによって、石材製品も海外との取引はもはや当たり前の時代に。日本の石材業界においても中国から輸入される安価な製品がじわじわと台頭してきているそうだ。

 より多くの人たちに庵治石の素晴らしさを知ってもらうべく、庵治町内の石材業者でつくる「協同組合庵治石振興会」では県や市などとも連携しながら各種イベントを開催するなどしてPRに努めている。また、墓石や仏像だけでなく、花瓶や小物、インテリアといった日常生活に身近な新製品づくりも展開。若手職人の発想をカタチにできるよう模索したり、SNSを活用し、“AJI STONE”として世界へ発信している。

 2021年開催予定の東京オリンピックのメーンスタジアム・国立競技場にも庵治石が採用されている。スタンド通路沿いの一画に小ぶりな庵治石を一面に敷き詰めたアート景観スペースだ。同組合では、国内外から訪れる大勢の人たちに庵治石をアピールできる絶好の機会であり、この発想を基に一般住宅などに向けた新しい製品づくりにもつなげていきたいと期待を寄せている。

【取材協力・写真提供/協同組合庵治石振興会】

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