SETOUCHI MINKA

古民家礼賛。【旧野﨑家住宅】

温暖な風土に育まれながら、人々の生活とともに進化・発展を遂げてきた瀬戸内の民家。古より長い年月を経た現在でも、瀬戸内沿岸の各県には歴史的にも貴重な質の高い古民家が現存している。その数ある古民家の中から、「製塩業で財をなした実業家の広大な邸宅」を訪ねた。

<取材・写真・文/鎌田 剛史>

この記事を書いたのは…
瀬戸内民家シリーズの雑誌表紙

瀬戸内海沿岸の岡山・広島・山口・香川・愛媛・兵庫各県で家づくりを手掛ける腕利き工務店の情報に加え、瀬戸内の自然や気候風土、歴史、文化といった、瀬戸内で暮らす魅力を発信しています。さらに詳しく>

旧野﨑家住宅

重要文化財岡山県倉敷市

製塩業で財をなした、大実業家の邸宅。

岡山県倉敷市児島にある「旧野﨑家住宅」は、江戸時代後期に新田開発と製塩業で大成した野﨑武左衛門が築いた邸宅だ。約3,000坪の広大な敷地には、主屋・表書院と6棟の土蔵が建ち並び、庭のあちこちに茶室が見られるなど、当時の栄華を物語る建物と庭園がほぼ当時のまま保存されている。2006年には国の重要文化財に指定された。

1838年に竣工した重厚な長屋門をくぐり真っ先に目に入ってくるのが、白漆喰になまこ壁が美しい土蔵群。向かって左から内蔵・大蔵・書類蔵・新蔵・岡蔵と内蔵後方に夜具蔵がある。一部は展示館になっており、製塩の歴史や江戸時代からの貴重な調度品などを展示している。

野﨑家が住まいの中心とした主屋は1833年ごろに建てられたもの。大工の技と苦心が至る所に垣間見られる見事な邸宅だ。主に平屋造だが一部2階建て。中座敷の広縁や台所の屋根に採光用の窓が取り付けられるなど、時代の変化とともに居住空間が進化しているのも特徴。主屋の印象をきりりと引き締める格式高い造りの座敷は、中座敷南端から向座敷北端までは9つの座敷が連続しており、襖を連ねる様は圧巻。その長さは約42mもある。

来賓を迎えるための表書院は、この邸宅の中心となる建物。1852年に竣工。上の間・下の間・茶室などで構成され、四方に一間の庇を付け、南と東には深い軒を設けることで、夏は直射日光を遮り、冬は日差しを採り込めるようになっている。各所の木材は地松や屋久杉、北山杉といった厳選した銘木を使用しており、洗練された床の間をはじめとする内部の意匠も相当手が込んでいる。波のうねりを象徴し黒の縁取りをしたデザインの欄間や、美しい造作の床の間が印象的。辺りは別世界にいるかのように静寂に包まれている。

主屋や表書院には木材を縦横に組む木舞打を用いた深い軒が設けられ、夏の日差しが照り付ける明るい屋外とは対照的に、室内は陰がかかり過ごしやすい。夏には日差しが座敷の中に差し込まず、冬は陽光を採り込んで部屋を暖かくするための工夫だといい、この技術は言うまでもなく、現代の「パッシブ設計」だ。

中座敷の南側にある茶室「臨池亭(りんちてい)」。このほか「観曙亭(かんしょてい)」「容膝亭(ようしつてい)」と名付けられた2つの茶室が建てられている。

【取材協力/公益財団法人 竜王会館】

旧野﨑家住宅

所在地/岡山県倉敷市児島味野1-11-19
開館時間/9:00~16:30 入館料/大人500円、小中学生300円
定休日/月曜日(祝祭日の場合はその翌日)、年末年始(12/25~1/1) ※無料駐車場有 

問い合わせ/086-472-2001
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