SETOUCHI MINKA

瀬戸内の伝統工芸士を訪ねて。~広島県・熊野筆~

木、草、土、石といった自然素材を高度な技術で加工した伝統工芸品は、はるか昔より日本人の生活や文化を支え続けてきた。人間の磨き抜かれた手から生み出される品々の繊細さと美しさは、日本が世界に誇れるもののひとつ。広島県にもさまざまな伝統工芸が今も残っており、先人たちが生み出し発展させてきた技法を一途に守りながら、研さんを重ね続ける匠たちがいる。古来より受け継がれてきた技や文化を、後世に残し伝えるという役割と責任を担いながら日々精進し続けている瀬戸内の伝統工芸士の仕事ぶりを拝見。伝統技術の保存と継承や、現代の暮らしへと融合させる工夫、そして、一貫して情熱を注ぎ続けるもの作りへの思いを伺った。

<取材・写真・文/鎌田 剛史>

熊野筆(経済産業大臣指定伝統的工芸品)/香川 緑さん

なめらかな書き味で手になじむ珠玉の一本。

広島県熊野町は筆づくりが盛んな街。約180年前の江戸時代末期ごろから筆の生産が始まったといわれ、現在でも日本一の生産量を誇る。近年では2011年、女子サッカー日本代表メンバー「なでしこJAPAN」に国民栄誉賞の副賞として熊野町の化粧筆が贈られたことから脚光を浴びた。

熊野町内には今も数多くの製造元が存在しており、先人より脈々と受け継がれてきた技術を生かし、書筆、絵筆、化粧筆など多彩な筆が職人によって生み出されている。創業120年の老舗「仿古堂」の香川緑さんもそのひとり。筆づくり一筋40年の熟練で、2007年には国の伝統工芸士に指定された。

さまざまな熊野筆が並ぶ「仿古堂」の店内。熊野筆の購入はもちろん、オリジナル筆の製作体験も可能だ。熊野町観光案内所「筆の駅」も併設している。

大きさや太さのほか、穂首の素材や配合の違いなど、ありとあらゆる筆を製造・販売している。

価格帯も幅広く、中には驚くほど高価な筆も。近ごろは化粧筆も女性から高い人気を集めているそうだ。

昔ながらの製法・原料を頑なに守り、書き味なめらかな極上の筆を。

「筆1本作る作業は大まかに分けて12工程。そのすべてをこなせるようになるには10年以上はかかりますね」と香川さんはほほ笑む。「仿古堂」では現在5人の職人が分業しながら1本1本を手作りしている。工作機具が発達し、作業が楽になったとはいえ作り方は昔のまま。穂首の素材となる羊や鹿、リス、狸などの獣毛の加工は難しく、選毛や寸切りなどの作業には高度な技術が必要だという。職人たちが丹精込めて作り上げた1本は、穂首を触るとさらさら気持ちいい。書き味もなめらかで素人でも一味違うのが分かる。文字を書くと達筆になったような気分になるから不思議だ。

仿古堂

広島県安芸郡熊野町出来庭10-6-23
☎082-854-0003
平日/9:00〜17:00、土曜日/9:30〜16:30、日曜日・祝日/10:00〜16:00
第3日曜日、年末年始、お盆休
http://houkodou.jp

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