SETOUCHI MINKA

瀬戸内の伝統工芸士を訪ねて。~山口県・萩焼~

木、草、土、石といった自然素材を高度な技術で加工した伝統工芸品は、はるか昔より日本人の生活や文化を支え続けてきた。人間の磨き抜かれた手から生み出される品々の繊細さと美しさは、日本が世界に誇れるもののひとつ。山口県にもさまざまな伝統工芸が今も残っており、先人たちが生み出し発展させてきた技法を一途に守りながら、研さんを重ね続ける匠たちがいる。古来より受け継がれてきた技や文化を、後世に残し伝えるという役割と責任を担いながら日々精進し続けている瀬戸内の伝統工芸士の仕事ぶりを拝見。伝統技術の保存と継承や、現代の暮らしへと融合させる工夫、そして、一貫して情熱を注ぎ続けるもの作りへの思いを伺った。

<取材・写真・文/鎌田 剛史>

萩焼(経済産業大臣指定伝統的工芸品)/吉賀 暁さん

“整い過ぎていない美しさ”に心惹かれる伝統の陶器。

「萩焼」は16世紀末、毛利輝元の命により朝鮮人陶工が萩で御用窯を築いたのが始まりといわれ、古くから「一楽二萩三唐津」と評されるほど全国にその名を馳せる逸品だ。使うほどに渋みが増していく枯れた素地の色が独特で、日本中に多くの根強いファンを持つ。

山口県萩市には何代も続く老舗窯元が今も多数存在している。市街東部の小畑地区に店を構える「泉流山」もそのひとつ。現在の代表の吉賀暁さんは4代目になるという。

先人たちの伝統技術を守りつつ、萩焼の新しい姿も追求していきたい。

吉賀さんは東京藝術大学で金属工芸を学び、東京を中心に創作アーティストとして活動。32歳で家業に入ってからは、金工で培った技術も生かしつつ、日々の生活に自然と溶け込む良質な製品づくりに精を出す。素地に塗る釉薬の成分の配合を変えることにより、これまでにない白や黒のマットな萩焼を生み出すなど、萩焼の新しい姿も追求している。

「泉流山」では伝統的な萩焼の粘土(大道土)に独自のアレンジを加えて使用。釉薬も秘伝のレシピを基に自前で精製しており、気候や湿度などによって調合を微調整している。

店頭に並ぶ萩焼のほとんどは敷地内にある登り窯で焼成したもので、年に一度大量の陶器を一気に焼き上げる。

新しい取り組みに果敢に挑戦する一方で、吉賀さんは「王道文化を継承することはもちろん忘れていません」とも。成形する際には今も昔ながらの足蹴りろくろを使い“整い過ぎない”ようにこだわっている。「作り手の指さばきや息づかいを刻み込んでこそ真の美しさが際立ちます。そして、偶然にしか生み出せない窯変の色合いも萩焼ならではの魅力。今後はSNSでの情報発信や、異素材を融合したこれまでにない萩焼の開発にも力を入れながら、先人たちの知恵が詰まった素晴らしい伝統を次代につなぐ新たな展開を模索していきたい」と吉賀さんは目を輝かせていた。

他の窯元では今やほとんど使われなくなったという足蹴りろくろは、力を入れて蹴らないとすぐに回転が止まってしまう。スムーズにろくろを回し続けるだけでも、素人には至難の業だった。

萩焼窯元 泉流山

山口県萩市大字椿東4481
☎0838-22-0541
9:00~17:00
水曜日定休(祝祭日と重なる場合は営業) 
http://www.senryuzan.jp

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