自然素材ならではのあたたかみで住む人を魅了する木の家。一般住宅のほとんどを木造建築が占める日本だが、大半の住宅会社は外国から輸入された木材を使用している。国内には家づくりに使われるスギやヒノキが豊かな山林があるのにもかかわらず、だ。その背景には国産材の価格や流通などのさまざまな問題が横たわっており、連鎖的に林業の著しい衰退、はては国内の森林環境の荒廃を招いている。この状況を改善すべく、近年は全国各地で住宅への国産材の利用促進に向けて、官民一体で取り組むケースが増加。兵庫県でもその動きが活発になってきている。地元の木を使った健康で快適に暮らせる家づくりの普及・拡大を図るとともに、ふるさとの森林を守り、人と自然が共生する循環型社会の実現を目指して日々奮闘する人々を追った。
<取材・写真・文/鎌田 剛史>
目次
受け継がれてきた知恵と技、そしてこころを注ぎ込んだ、未来への財産となる住まいを。

私たちが建てたかったのは、みんなが健康で快適に暮らせる、木のよさを実感できる家でした。
風光明媚な海を見下ろす丘陵地に広がる閑静な住宅街の一角に、焼杉板の外壁が美しい家が建っている。体に優しい自然素材をふんだんに使った室内に身も心も癒される。
すっかり秋めいた陽気に誘われて、穏やかな太陽が降り注ぐウッドデッキに出た。ひとつ、のびをしてみる。澄み渡る青空に向かってピンと伸ばした両手の先に、大きな建造物が目に入った。右手の向こうには、明石市立天文科学館の時計台。左手の先には、淡いグリーンの明石海峡大橋が青い海と美しいコントラストを描いている。吹き上がってきた爽快な風に乗って、かすかに船の汽笛も聞こえる。絶景に思わず、見とれた。
Oさん家族が兵庫県明石市に待望の家を建てたのは約半年前。「私は生まれも育ちも明石。幼いころから慣れ親しんだこの地に家を建てるのは、自然なことでした」とご主人。以前からずっと木に囲まれた家での暮らしに憧れていたのだという。「私や子どもがアレルギー体質ということもあって、体に優しい環境で過ごしたかったんです。自然素材に包まれた空間にいると気持ちも穏やかになるし、子どもたちの成長にもいいですしね」。九州出身の奥さまも、木を使った昔ながらの日本家屋で育ったこともあり、そんなご主人の考えに異論はなかったそうだ。
Oさんが選んだ住宅会社は、木の力を生かした家づくりに定評のある「大塚工務店」。地元・明石市で長年にわたり、デザインなどの流行に左右されず、住み手の快適な暮らしを第一に考えた住まいを提供し続けている老舗工務店だ。同社が手がける厳選した自然素材を用いた上質な住まいはもちろん、気密・断熱・耐震・耐久といった住宅性能は担保しながら、住まい手の暮らしに向き合い、その人に最適な暮らし方を提案するという、住宅建築の本質を追求する姿勢に、強い感銘を受けたという。
「景色のいい立地を最大限に生かしつつ、家族がいつまでも快適で健康な生活が送れるよう、間取りや素材の選定、室内からの眺望などにとことんこだわりました」と話すのは同社の大塚伸二郎社長。和の趣をベースにモダンテイストを程よく織り込み、シンプルながらも存在感のある家に仕上げることができたと胸を張る。

階段を上がり切った瞬間、目の前に広がるのは木の香りと開放感に包まれたフリースペース。光と風を呼び込む大開口窓は、眺望のよい景色を取り込んだ大きな風景画のよう。木の美しさを際立たせるため、光の採り入れ方にも配慮しながら陰影が美しくなるように設計している。
延床面積が約24坪のコンパクトな2階建て。天然木の香り際立つLDKには吹き抜けを設け、2階にいる家族の気配を常に感じられるようにしてコミュニケーションを良好にするとともに、室内の開放感を演出。リビングとダイニングの間には段差を付け、奥行き感を出すことで狭さを感じさせないように工夫している。

木の家といっても純和風ではなく、現代的なエッセンスを採り込んだ和モダンの住まい。家族が集まる1階は、庭に向かって開かれた大きな窓で採光も格別だ。多彩な国産材が使われており、見た目も肌ざわりも各々個性的だが、ぶつかり合うことはなく、全体がしっくりとなじんでいる。「耐久性もよく考えられた木材なので、子どもたちの成長とともに経年の変化が楽しみです」とはご主人の弁。

壁・床・天井まで国内の厳選した無垢材で覆われ、木のぬくもりに満ちたOさんの家。子どもたちは裸足で走り回り、家族みんながのびのびと生活している。リビングに入ってすぐの吹き抜けが1・2階をゆったりとつなぎ、家族がどこにいても気配を感じられる設計。動線もコンパクトだ。夏はひんやりと自然の涼しさ。冬はリビングにあるペレットストーブの暖気が吹き抜けから2階へと上昇し、家全体を暖かく包み込む。

LDKでもっとも存在感を放つダイニングテーブルは、奥さまの実家で使われないまま放置されていた年季の入った木材を再利用したもの。その一端にはIHコンロを組み込み、Ⅱ型キッチンにすることで機能性を向上。テーブルやシンクは奥さまの身長に合わせた使いやすい高さに調整してあり、食器や小物を収める収納もすべて大工の手作りで設えた。
共働きであるOさん夫妻のライフスタイルを考え、家事動線に配慮した設計に。夜でも洗濯ができるようにとの奥さまからの要望を受けて室内物干しスペースを設置。バス・洗面の水回りを近くにまとめ、キッチンからもスムーズに移動できる間取りにすることで、家事が効率よく進められ、奥さまの負担を軽減することにも成功している。
この家のハイライトともいえる場所が、階段を上がってすぐの2階フリースペース。正面の大開口窓からは明石海峡大橋の姿を望める。吹き抜け部分に造作した用途多彩なテーブルは、見晴らしのいい絶好のロケーションを独り占めできる特等席に。木製の大型格子を開けると出られるウッドデッキは、日向ぼっこにも最適。2階には夫婦の寝室とお姉ちゃんの部屋があり、ロフトは将来弟くんの部屋にする予定だ。




2階ウッドデッキからは絶景ロケーションを一望。南側には美しい播磨灘と明石海峡大橋が、北側には明石市立天文科学館の時計台が目に入る。兵庫のシンボリックな建造物を一度に堪能できる。
この家で初めての夏を過ごしたOさん家族だが、入居前に住んでいた賃貸アパートに比べると格段に過ごしやすかったとニッコリ。「やはり木の影響でしょうか。ジメジメしないし、自然なひんやり感があって。エアコンをつけっぱなしにしなくても暑くなかったですね」とご主人は目を細める。子どもたちも新しい家での暮らしにすっかりご満悦の様子で、お姉ちゃんは、ウッドデッキで遊んだビニールプールが楽しかったことを目を輝かせながら教えてくれた。
やんちゃ真っ盛りの弟くんも無邪気に家中を跳ね回っていたが、そのうち勢いあまって転んでしまった。「自然素材の家での暮らしはやっぱり気持ちいいです。私たちの理想とする家を叶えてくれた大塚社長には心から感謝したいです」と、奥さまは泣きじゃくる弟くんの頭を撫でながら、優しく微笑んだ。
県産のスギを構造材に使用。民家の息吹を織り込んで。
むき出しの梁や真壁の柱、現しの天井など、木の質感にあふれているOさんの家。使われている木材はすべて国産材だ。良質なスギやヒノキ、マツなどのほか、大塚社長が全国の産地に自ら足を運び厳選した木材から、柱や土台といった家の各部位に適した樹種をセレクトし、その特性を最大限に生かせるように用いている。内部の素材にも壁紙に利用した土佐和紙をはじめ、そのほとんどが国産品を使用するなど、まさに「メイド・イン・ニッポン」の家だといっていい。
特筆すべきは、この家の骨組みとなる構造材に兵庫県産のスギを100%使用していることだ。それは、地元で育った木材を使い、伝統工法と現代の技術・センスを融合させた住まいを建てることにより、地域の気候・風土に合った良質な家を提供するという大塚社長のポリシーからでもある。自身が理想とする家づくりについて、料理の話も例えに挙げながら説明してくれた。
「流行の最先端を追いかける住宅会社がつくる家のように派手さや洗練さはないのかもしれない。だけど、ずっと飽きることなく、長い年月を重ねるごとに住まい手になじみ、愛着がひときわ増していく。しかも一年中快適で健康に暮らせる。そんな住まいを提案するのが僕の仕事。まあ、ハウスメーカーの家が『フランス料理』なら、僕がつくる家は『素うどん』みたいなもんかな(笑)。どっちも美味いんやけど、日本人ならうどんって、毎日でも飽きひんで食べられるでしょ?味付けも自分好みにできるしね。だから、日本人に適した家というものも当然あるわけで。僕が思う日本人らしい家というのは、国内ひいては地元・兵庫で育った木を使った木造建築が自然なんやないかと思うんですよね」。
熱弁をふるう大塚社長にとって、自身の家づくりの概念として近年掲げているキーワードが「民家」だ。民家は先人たちによって長年にわたり継承されてきた、いわば日本の住文化のシンボル。だが、時代とともに社会・経済の大きな変化がもたらした生活様式の変ぼうによって、日本の家は鉄骨やビニールクロスなど効率性や生産性に優れた低コストの工業製品を用いたものが台頭するようになり、かつては主流だった民家への意識や愛着は、今やすっかり薄れてしまったと大塚社長は嘆く。
「昔の民家はたしかに暗く、寒く、不便でした。だけど、それを補うほどの素晴らしい面もいっぱいある。無駄をそぎ落としたシンプルで洗練された木造軸組の美しさ。千年以上経っても現存する寺社が全国に多くあるように、その耐久性や調湿性は驚くほど高い。先人たちが磨き上げてきた木造建築の技術と知恵は、現代の家にこそ生かされるべきだと思います」と言い切る。ますます言葉に力を込めながら、さらに続けた。
「だからといって、温故知新を体現すればいいというものではないです。昔の民家にあったさまざまな弱点を克服するために生み出された現代の技術をうまく融合させることは欠かせません。僕らの家づくりは、良質な自然素材を使った在来工法でありながら、全棟で構造計算を行い、耐震等級を示しています。断熱材もしっかり施工し、長期優良住宅にも適合する次世代基準の住まい。パッシブデザインの設計手法を駆使して自然の力と共存でき、兵庫の気候や風土にも合った家です。その根底には、日本の住まいのルーツである民家の息吹を織り込んでいます」。


創業100年を誇る「大塚工務店」は伸二郎社長で4代目。風土に溶け込む木の家づくりが持ち味で、県産木材の普及にも力を入れている。県内の山々に足しげく通い管理状況もチェック。乾燥方法・強度・含水率・木の美しさ・サイズなどを吟味し製材所を厳選。どこの誰が作ったか履歴をたどれるトレーサビリティーも大切にしている。
地域の住文化を守り、未来へとつなぎたい。
木の家は、日本人の伝統的な暮らし方の良さをあらためて知ることができる。木の香りに包まれた居住空間で、周囲の自然と調和し、春夏秋冬の変化を感じながら、日本人の心と風土の奥深さに触れることで、現代を生きる人たちの未来を見いだす一助にもなる。また、民家をはじめとする住まいの歴史は地域の歴史でもあり、ふるさとの文化をあらためて知るきっかけをつくってくれる。
「兵庫県産の良質な木材を中心に、全国各地のさまざまな良材を適材適所に活用した木の家の魅力を、いろんなカタチで発信していきたいと思っています。そして、脈々と受け継がれてきたふるさと兵庫の住文化を守り、次の世代へとしっかりつなげていきたいですね」。
額にうっすら汗をにじませながら、自らの家づくりに対する思いを熱っぽく語る大塚社長の横で、静かに聞いていたOさんがポツリと言った。「兵庫で生まれ育ったんやから、兵庫の木を使った家の方がことさら愛着がわきますよね。大塚さんに建ててもろうて、ホンマによかったです」。

「この家から毎日活力をもらっています」と大満足のOさん家族と談笑する大塚伸二郎社長(最右)。大塚社長はプランを考える際、体に優しい木と自然素材を用いることのほか、家族が一緒にいられる時間にしっかりとコミュニケーションが取れるような間取りになるよう心がけたのだとか。
取材協力/株式会社 大塚工務店
兵庫県明石市桜町2-22
☎078-911-8537
https://kinoie.life
その土地で生まれた木をその土地で使うことによって、木の持つ利点を最大限に生かすことができる。
理屈抜きの心地よさ。健康が当たり前な木の家。
「木の家は、高温多湿な日本の気候ととても相性がいいんです。木は断熱性に優れ、湿気を吸い取ってくれるので、夏は涼しく、冬は暖かく、いつも快適な居住環境を生み出してくれます。そして何より、健康に暮らせるということ。木の香りは癒しやリラックス効果もありますし、無垢の木はシックハウス症候群の原因となる代表的な化学物質のホルムアルデヒドを吸収して放出しません。そもそも、家は健康に暮らせて当たり前のもの。家を建てる際に、健康を求めなければいけなくなった今の日本の住宅って、なんかおかしいなと僕は思うんですよね」。
穏やかにそう話すのは、兵庫県加東市の製材業「宮下木材」の浮村晋也さん。大学で環境学の研究に打ち込んだ後、宍粟市のプレカット工場に就職し、製材に関する知識とスキルを習得。実家が営む製材工場へと戻ってからは、会社を支える屋台骨として活躍している。若干29歳の木を知り尽くしたプロフェッショナルは「私なんかまだまだ未熟者」と謙遜するが、その知識は木の特性から地球環境に至るまで実に幅広く、深い。



のどかな田園風景が広がる加東市新定に工場を構える「宮下木材」。昭和21年の創業以来、国内外の木の製材・加工・販売を一貫して行っている。近年では住宅・公共建築・マンション工事などへの資材販売、土地開発にともなう伐採事業、木粉化事業、産業廃棄物の中間処理など、多彩な事業を展開する「木の専門店」。平成3年には住宅専門会社「宮下」を設立し、長年培った技術と経験を生かした木の家づくりを提案。木・環境・健康にこだわり、持続可能な「循環型社会」の形成を目指している。
間伐されず荒廃が進行。兵庫県内の森林は危機的状況に。
県土面積の約67%を森林が占める兵庫県。家づくりの材料として用いられるスギやヒノキの多くが、利用するのに最適な伐採期を迎えているという。「兵庫の木の特性ですか?例えば、県内有数のスギの産地である宍粟市周辺は土壌に鉄分が多いことから、木の芯が黒いのが特徴。スギの板には赤身の部分がありますが、宍粟のスギはやや黒っぽいんですよ」と、浮村さんはスギの板を片手に分かりやすく説明してくれた。
兵庫県産のスギやヒノキの品質は、国産材で高級ブランドとして取り扱われている奈良県の「吉野杉」「吉野檜」や、徳島県の「木頭杉」、岐阜県の「東濃檜」、和歌山県の「紀州檜」などに比べてもけっして劣らないという。しかもそれらのブランド材に比べれば価格も安い。にもかかわらず、県産木材の利用率は伸び悩んでいるのが現状だ。
その原因について浮村さんは言う。「国産材の価格は輸入材より2割ほど割高。輸送費や関税が上乗せされるのに輸入材の方が安いんです。そうなってしまっているのは、日本の林業が衰退の一途にあることから。この兵庫県もそうです。林業に携わる人たちは、価格の下落を国からの補助金で賄いながら続けている状況。だから、就業人口もどんどん減っていくという悪循環に陥ってしまっています。流通面のインフラが充分でないことなども重なり、住宅会社の大半は輸入材を使うため、国産材の使用量自体が伸び悩んでいるんです」。
そういった状況が、国内の森林環境の荒廃を引き起こしていると浮村さんは警鐘を鳴らす。「樹木を伐採し、その跡地に植林することでまた若い木々がたくさんの炭素をたくわえ森林は成長していきます。そのためには計画的に間伐と植林を行わないといけない。ですが、国産材が使われなくなると山林から人が遠ざかり、手が入らなくなってしまいます。山林が荒れると、川や海が連鎖的に汚れ、土砂災害の発生率も高まってしまいます。県内の山林ではスギやヒノキが伐採の時期を迎えているにもかかわらず、きちんと間伐されている山林は全体のたった18%に過ぎません。放置された山の所有者が分からず、立ち入ることができないという問題も発生しています」。

兵庫の木の特性や、森林環境について教えてくれた浮村さん。温厚な人柄がにじむ風貌だが「木の家づくりで人々の暮らしを変えたい」との思いを胸に、木を取り巻く業界の再興に向けた取り組みにも情熱を注いでいる。
ただ、兵庫県が平成29年に「兵庫県県産木材の利用促進に関する条例」を制定したのを機に、県産木材の取り扱いはじわじわ増えてきているそうだ。社会全体の環境問題への関心の高まりに伴い、自然素材の家を要望する消費者が増加していることも追い風となり、国内の木を取り巻く環境に好転の兆しが現れ始めているのかもしれないと浮村さんは期待を寄せている。
「宮下木材」では、住宅専門事業部として「宮下」を平成3年に設立。浮村さんが二級建築士の資格を取得し、陣頭指揮を執るようになってからは、県産木材を100%使った家づくりのみを提案し続けている。
「家づくりで地産地消を目指したい。その土地の気候風土で育ったものが、木としては当然一番いい条件なんですから。人工林と国産材を取り巻く問題は、社会に少しずつ浸透してきているので、私も微力ながら県産木材を使った住まいの素晴らしさや意義について発信し続け、未来の健全な環境づくりに貢献していきたいです」と意気込みを見せていた。


取材協力/株式会社 宮下木材
兵庫県加東市新定315
☎0795-46-1145(代表)
https://miyashita-wood.com
県産木材の家がお得に叶う兵庫県の木材住宅ローンを積極的に活用してほしい。
県内トップクラスの低金利。独自の制度でコスト削減を。
井戸敏三兵庫県知事は、平成29年2月の知事エッセーで「兵庫の森林の今後の利用の二本柱、まず県産木材の住宅などへの利用拡大と、2つのバイオマス発電用木材チップの生産、この二本柱に兵庫の森林資源を供給していき、林業の振興と森林の適正管理を目指していきたい」と綴っている。

兵庫県の森林面積は55万9,790ヘクタール。県土面積に占める森林の割合は67%で全国平均とほぼ同じ。そのうちの95%が民有林で53万323ヘクタールに及ぶ。

県内の林業労働者数は、平成29年度末では821人で、平成5年度から約20年間で半減しており、就業人口の減少が課題。だが、新規就業者の確保に向けた継続した県の取り組みによって、49歳以下の林業労働者は増加傾向にあり、平成29年度末現在では全体の56%を占めるまでになった。
地産地消を推進する兵庫県は、県産木材利用の普及・拡大を図るためのさまざまな施策を展開している。その一つとして昭和60年から取り組んでいるのが「兵庫県産木材利用木造住宅特別融資制度」。これは、県産木材を使った木造住宅の新築やリフォームをする県民を対象に、県と金融機関が協力して資金を融資する住宅ローンだ。兵庫県林務課の土佐達郎さんに概要を伺った。
「当制度の大きなメリットは他の金融機関などの住宅ローンに比べて金利が格段に低いこと。25年目までは返済期間を通じて0.8%の融資利率を固定して適用するので、安心して資金計画を立てられます。例えば2,000万円を借りるとして、当制度と他の固定金利の住宅ローンとを比較してみると、当制度の方が約250万円も支払額を抑えることができます。さらに、県産木材を60%以上使用し、長期優良住宅の認定を受けている場合は、返済期間を35年以内までに延長可能です。なお、26年目以降の融資利率は1.8%になります」。
融資限度額は2,300万円だが、県産粘土瓦の使用で200万円、環境配慮型住宅の建築には500万円(リフォームは200万円)、高強度梁仕口「Tajima TAPOS」の技術を活用した場合(リフォームを除く)には200万円がそれぞれ上乗せできる。兵庫での家づくりを考えているなら、知っておいて損はない制度だ。
しかし、この制度への県民の認知度はまだまだ低く、利用率が低迷しているのが現状だという。土佐さんは「人生でもっとも高い買い物といえるマイホームを、よりお得に叶えるためにも有益な制度ですから、今後も精力的に広報活動を行い、普及に努めていきたいと考えています。ローン内容や条件、申請手続きについてなどは兵庫県林務課まで気軽に問い合わせてほしいです」と県民のさらなる利用を呼びかけている。

兵庫県林務課の土佐達郎さん。県と金融機関の連携による独自の住宅ローン制度は全国でも数少ない取り組み。「コストを抑えて健康で安心な住まいが叶うよう、一人でも多くの県民に利用していただきたい」と話す。同住宅ローンの詳細は兵庫県のホームページでも確認できる。
地元工務店と連携し、県産木材の普及に注力。
兵庫県ではこのほか、新築やリフォームを検討している人を対象に、毎年「産地見学バスツアー」を開催。丹波や宍粟といった林業地やモデル住宅などを巡るコースで、県産木材を使用した家の魅力を広く知ってもらえるようアピールしている。
さらに、県産木材を使用した家づくりに取り組む工務店を「ひょうご木の匠」として登録。その中から県産木材の利用を通じた資源循環型林業の確立と、豊かな森づくりを応援するための組織化に賛同した工務店とともに「ひょうご木の匠の会」を設立し、地域材を使用することの意義や木の素晴らしさを、パンフレットやホームページなどでPRするほか、工務店同士での情報交換や各種研修の開催、各工務店の広報活動の支援など、一体となった取り組みを積極的に推進している。




「産地見学バスツアー」の様子。毎回家づくりを考える夫婦や親子連れらが多数参加し、丹波や宍粟の森林で伐採作業を間近に見学。製材工場、モデルハウスなどを巡り、木が商品化されるまでの流れを知ってもらい、その魅力を体感できる内容を企画している。
取材協力/兵庫県農政環境部農林水産局林務課
兵庫県神戸市中央区下山手通5-10-1
☎078-362-9224(木材利用班)
兵庫県産木材利用木造住宅特別融資制度については
https://web.pref.hyogo.lg.jp/nk14/af13_000000017.html
木の家を選ぶことは、未来の森と暮らしを豊かにする大きな一歩へとつながる。
アトピー・アレルギーが改善。治癒力を高める木の効果。
兵庫県から「ひょうご木の匠」として登録された工務店が集まる「ひょうご木の匠の会」を取り仕切るのは、明石市にある「日置建設」の代表取締役・日置尚文さんだ。「どんな土地でどのように育ったのか分からない輸入材に頼るのではなく、産地のはっきりした県産木材を使うことは大きな安心にもつながります。私たちは、アレルギーやシックハウス対策など健康に配慮した家づくりを、自信をもって提案しています」と力説する。
日置さんは幼いころからアトピーに苦しんできたそうだが、自宅を自然素材の家にしてからは、それまで悩みの種だった肌の激しいかゆみや、乾燥による肌荒れといった症状が大幅に改善したという。「木に包まれた空間に足を踏み入れると、やさしさやあたたかさを感じます。美しい見た目やなめらかな手触りは木が持つ特性のひとつですが、実は見えないところでも優れた効果を発揮しているんです。遠赤外線効果によって心身をリラックスさせるはたらきのほか、人間の潜在的な自然治癒力を高める性質も持っています。その効果を身をもって実感したこともあり、私は木の家づくりの素晴らしさを多くの方に知ってもらい、私と同じようにアトピーやアレルギーなどで苦しまれている人たちを救いたいという思いで、家づくりに取り組んでいます」。
県産木材の利用促進はもちろん、良質な家づくりの普及のために尽力する日置さん。自身の会社での業務をこなしつつ、同じ思いで家づくりに取り組む他の工務店と連絡を密に取りながら、「ひょうご木の匠の会」として各種イベントに参加したり、兵庫県林務課と同会で定期的に会合を開き、今後の活動の方向性や課題について意見を交わしながら知識と技術の研さんに励むなど、多忙な毎日を送っている。
「兵庫県には木を使った素晴らしい住まいを提供してくれる工務店がたくさんあります。また、県による低金利の住宅ローン制度もあり、これから家を建てようと考えている方は非常に恵まれた環境にあると思います。県産木材を使った家は、家族が快適で安全に、そして末永く健康に暮らせることはもちろん、ふるさとの森林環境保護にもつながります。ぜひ多くの方々にも考えていただきたいですね」。

昔からアトピー体質で皮膚トラブルに悩まされてきたという日置さんだが、無垢材に囲まれた暮らしによって、症状が出なくなったそうだ。

「ひょうご木の匠」は現在兵庫県内の工務店約50社が登録。互いに連携して県産木材の利用促進を図りながら、地域に愛される工務店を目指してともに切磋琢磨している。

明石市の「日置建設」は、快適で健康な暮らしを提供することをモットーに、播磨地域の気候・風土を活用した自然素材の家づくりにまい進している。

取材協力/日置建設 株式会社
兵庫県明石市大久保町江井島1748-2
☎078-936-4320
http://k-hioki.com
地元の自然環境保護への意識と関心をさらに高めて。
兵庫県産木材の普及活動にいち早く取り組み、その礎を築いたともいえる団体が「ひょうご木づかい王国学校」だ。平成27年、兵庫県は地元工務店の協力の下、県産木材の魅力と地元の自然環境に関する情報発信の場として、神戸市中央区のハーバーランドにある商業施設の一角に「ひょうご木づかい王国」を開設。毎月開催の県産木材のワークショップや各種イベントは大勢の家族連れらでにぎわい、年間約2万人が来場するほどの好評を得た。
平成29年には県から運営業務を託された地元工務店25社による団体「ひょうご木づかい王国学校」として活動をスタート。現在は神戸市西区の「つむぎ建築舎」内に拠点を移し、「ひょうご木の匠の会」とも連携しながら県産木材の情報発信とPRのほか、カウンターでの家づくり相談、県内優良工務店の紹介などを行っている。
同団体の代表を務めるのは高橋剛志さん。「つむぎ建築舎」の運営会社「四方継」の代表取締役でもある。「木づかい王国」発足時から中心人物となって活動を支えてきた。「約3年前から県産木材を県民の皆さんに知ってもらおうと地道に活動してきましたが、ここに来てまいてきた種がようやく芽を出してきた感じです。『2年前に子どもとワークショップに参加して木の魅力を知り、木の家づくりを真剣に考えるようになった』といった相談も徐々に入ってくるようになりました」と高橋さんは笑う。
だが、まだまだ県産木材の認知度は低い。高橋さんは、今必要とされているのは地元の森林が抱えている問題に対して関心を持つ人を増やすことだと声高に訴える。「県民の意識がもっと高まれば、県産木材の利用は当然増えるし、それに伴って木材価格の安定や流通の改善といった林業全体の課題も解決に向かっていく。そうなることで地元の経済も回る。地域が活性化することにより、暮らしやすくなるんです」。
兵庫県の森林を保護し、蘇らせるためにも、早急な整備が必要だと高橋さん。そのためにできることは何かとの問いには「木の家を選ぶこと」ときっぱり。「木の家を建てることは、環境にやさしく無駄のない循環型社会をつくることでもあります。ちょっと大げさかもしれませんが『地元の木材を使ってあげよう』という一人ひとりの小さな気付きに、ふるさと兵庫の未来はかかっているといえるのではないでしょうか」。

「つむぎ建築舎」の社屋内にある「ひょうご木づかい王国学校」の相談カウンター。県民の木の家づくりをサポートするとともに、県産木材の普及推進活動に取り組んでいる。引き締まった体で健康的な高橋さんは、工務店の経営コンサルタントとしても活躍。さまざまな会合や講演会に招かれ、全国津々浦々を忙しく飛び回っている。


「つむぎ建築舎」は、断熱・気密の数値を担保する自社設計・施工、自社大工による毎年のメンテナンスで、長年に渡る安心の暮らしをサポートする地域密着の工務店だ。

取材協力/つむぎ建築舎
神戸市西区池上3-6-7 SUMIRE.COmplex 2F
☎078-976-1430
https://tumugi.sihoutugi.com
近くの山の木で家を建てること。それは、ふるさとの自然とともに生きるということである。その選択は、快適で豊かな暮らしを営んでいくための大きな一歩となるかもしれない。あなたが兵庫で暮らしていくのならば、未来を見据えた「兵庫の木を使った住まい」も、家づくりの選択肢のひとつに加えてはいかがだろう。
※文章の内容、統計数値、融資制度の概要、写真などは2019年の取材当時のものです。各種数値、融資制度、兵庫県の活動状況などは最新の情報をご確認ください。
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