小さな用水路に沿った細く長い敷地。とかく制約に縛られがちな変形地であるが、この家はむしろなにからも解き放たれたように、のびのびと気持ちよくからだを伸ばす。住むのは、お子さんが誕生したばかりの若いご夫婦。日頃から持つものひとつにも高い美意識を払い、洗練を知るおふたりだ。彼らの要望は言葉の上ではごく普遍的なものだったが、その奥に妥協できないスタイルをもっていることを、設計士はすぐに理解した。ご夫婦のほうも、感覚を同じくする作り手に全体をゆだねたほうがよい結果を生むことを知っており、プランニングはまるで趣味仲間の雑談のようなかたちで進んでいったという。雑多さを徹底的に排除したインテリアには、住み手の暮らしに対する姿勢が如実に表されている。常にものが出ていない状態にしたいからこそ、生活空間内に多くの収納は不要だとIさんは言う。家具は必要なものだけを造り付け、整然とした空間にダイニングキッチンがオブジェのように佇む。その両端は基礎から立ち上げたコンクリート、ワークトップは溶接で成形されたステンレス板。もの言わぬ素材から伝わってくる重みや厚みが、住まいの風格をつくり出す。建具の納まりや配線などにも細やかな手間ひまが掛けられ、設計士の大原さんは「シンプルに作るのは簡単じゃないんだよ」と笑う。シンプルに暮らすこともまた難しいものだが、それが実現された住まいは、この上ない美しさをたたえている。
建築実例データ | |
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もっぱら「ロードバイク」。しかも素材は今どきのカーボンじゃなく細い金属フレーム。細いパイプだけで構成されたフレームはこれ以上ないくらいシンプル。しかもその素材やディメンションで全く乗り味が変化するから面白い。こんなもんだからロードバイクがドンドン増えていく。そして、家内の機嫌はドンドン悪くなる・・・
代表取締役 大原 宏一